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理事長のひとこと

第194回 救国内閣の前に菅政権に問われること

  3.11の大地震と津波、そして福島第一原発の事故が相次ぐ流れのなか、日本はどうすればよいのかという問いかけがあらゆる階層において行われるようになった。内閣においても当然、『救国』を銘打って新しい方針を打ち出すべきだという考え方はあるだろう。しかしその場合、政党間でどういう合意ができるのかという以前に、現在政権をとっている民主党が、菅直人内閣が、自らの姿勢を明らかにする必要があると思う。

 重要なことは、これまでの2011年度の予算作りの前提がすべてひっくり返った以上、予算の組み替えを根底的に行うべきだという点だ。従来民主党は、例えば子ども手当や高速道路の利用料金のあり方等についてマニフェストで掲げてきた。しかし、今回の東北関東大震災とその後の情勢を見ると、当然のことながら2011年度の予算は根底から組み直すべきである。マニフェストに掲げたいくつかのうち、国民の一部あるいはそれ以上から、ばら撒きという声が多かったものについて全面凍結することは、当然あって然るべきではないだろうか。
 従来から社会福祉に関わる支出は、実際には地方自治体の体力、すなわち税収がどの程度あるのかとの関わりで内容が決まっていた。そういう意味では、国民に一定の生活水準を保障するという意味での社会福祉は、ナショナルミニマムという面もあるが、現実には地域差が既に大きく拡大していた。そうした中、今回の地震、津波そして原発事故では、日本列島の特定の地域に極めて甚大な影響が及ぶこととなった。今後この地域では、従来の地方税収の基盤が大幅に損われることは間違いない。これまでも地方交付税交付金というかたちで、一度国庫に入ったお金を自治体に分配する仕組みはあった。しかしそうした制度の内部において、この地方交付税交付金の配分変更を超える大きな問題が起きていることは間違いない。

 我が国における生活保護には二つの側面がある。一つは低所得者に対して医療保険を提示するという問題の立て方である。生活保護を受けている世帯は、日本全国の医療機関で医療サービスを受けることが実質上無料になっている。このため生活保護費の実質上半分は医療費支出になってきた。生活保護のもう一つの側面は高齢者に対する所得補償である。低所得者に対する無料の医療サービスと、高齢者に対する所得補償とから成り立っていたのが生活保護の実質である。これが今回の災害によって、果してこれだけでよいのかという問題が浮上した。上述のように、実際には社会福祉支出の内容に地域差が生まれていた以上、今回特定の地域が深甚なる影響を受け、税収の基盤が大幅に損われ、支出に関しては、国の補助が得られるにせよ、自治体が負担する面も当然あるという中、財政収支バランスを10年の単位でどのように組み上げるのかという議論がこれから出てくるだろう。

 2011年度民主党が作った予算は既に国会にかかっており、歳出については衆議院を通過している。このため30日経過した3月末になれば、自然成立になる。しかし、税収はわずか41兆円程度であり、歳出の50%にも満たないというのが現実である。したがって震災前には、赤字国債を含めた予算関連法案が通らなければ、そもそも歳出だけ決まっても、予算執行はできないのではないかという議論が行われていた。今回の情勢に鑑みるに、歳出面も当然のことながら、国民の間で問題があると言われてきたものについては、マニフェストをすべて凍結することが前提にならなければ、今後の10年あるいは10年以上に亘ると思われる今回の震災、津波、原発事故からの復興に関わる予算の捻出はできない。

 私は『救国内閣』を作る必要はあるとは思っている。しかしその大前提として、菅直人首相は衆議院を通過した2011年度の予算を凍結し、もう一度組み直す必要があると思う。そのことも含めて『救国』と呼び、そして与野党で協議できる項目をできるだけ増やし、合意をもたらし、この3.11以降の事態に対処するということが重要になるのではないか。

 我々は、福祉制度はできあがったものだと思っている面がある。国民皆保険、皆年金という仕組みがあり、既に制度は成り立ったものだと思いたいところだが、実際には医療保険についても、年金についても、持続性が問題視されている。世代間の不均衡があるということも常に論じられている。果して人口構成がこれだけ変化した後、10年、20年あるいは現在の若者が生きていく今後50年持続していくのか、幼児を考えれば70年、80年という単位になる。子ども手当はもちろん重要だが、生涯を通じて持続的な日本の仕組みの中にいることができるのかどうかをテーマとして掲げざるを得ない。私はこのことを正面から議論するべきだと思っている。
 現状、生活保護をはじめとして地域間格差があることに加え、今回の震災が特定の地域に集中して被害が起きたことを考えると、当然のことながら今のままでは済まない。世代間を通じた制度の持続性ということに加え、この地域間の問題をどう手当てするのかという問題も浮上してきたと言える。テレビの映像を通じて、災害を回避し、避難所で生活する人たちの表情を見る限り、多くの人々は、これだけ高齢者が多くて果して被災地の復興、復活はできるのかという感触を受けるだろう。今回被害を受けた地域においてはすぐ生活保護という問題に直面し、そして財政制度の破綻というテーマが浮上するだろう。そこに手当てすることなくして、我々は21世紀の日本像は作れないと思わざるを得ない。

 現在、菅内閣がどこまで『救国内閣』の呼びかけに腰を入れているのか、構えができているのかということが問われている。『救国内閣』は必要だが、そのためには2011年度の予算を一度ご破算にして、再度組み上げることが必要なのではないだろうか。そうしたことを前提とした呼びかけに諸野党が対応しないということがもしあれば、これは野党が厳しく問われるべきだが、現在のところボールは内閣の側にあるというのが私の意見である。

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