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理事長のひとこと

第231回 税と社会保障改革について

  通常国会が始まり、野田佳彦首相は税と社会保障の一体改革に敢然と取り組む態度を示している。当然のことながら今後の道行きは簡単ではない。様々な思惑を含めた予測が出てきているが、今回はこの社会保障改革の内容と、2段階に分けて消費税率を合計5%引き上げることの対応関係を考えてみたい。

 通常我々国民は、この消費税率の5%引き上げを通じて社会保障給付が充実する、あるいは堅実なものになるということを想像しがちである。しかし、実際にはそれほど簡単なことではない。政府はこれまで、増税によって行なうべきことに目をつぶり、政府の一部にある埋蔵金を取り崩す等して穴埋めをしてきた。しかしついに増税を正面から取り上げざるをえなくなっている。
 例えば基礎年金の2分の1を税金で負担することは既に決まっているが、これを決めた背景には、基礎年金の拠出者の数は減っていることがある。生活が困窮すれば、基礎年金のための拠出も当然難しくなる。なかなか財布が許さない人に対しては基礎年金の拠出を免除することになる。また、そもそも自分が受給するときに、この基礎年金が実体をもって存在しているのか疑問をもっている一部の人の中には、いわば確信犯的に基礎年金の拠出を行なわない人もいる。いずれにせよ基礎年金の拠出者の割合はどんどん下がっており、社会保険料拠出だけで基礎年金を賄うのは難しいという政治的な判断がなされたのだ。そこで基礎年金の2分の1は税金で補填することに決められたが、実際には消費税率の引き上げを含めた租税上の手当てはされず、埋蔵金の取り崩し等によって、とりあえず穴埋めされてきた。今回の改革は、こうした弥縫策にも限界があるので、基礎年金の2分の1を税金できちんと埋める仕組みにしようというものである。今回引き上げようとする消費税率のうちの1.1%は、この基礎年金の補填に使われることになる。言うならば、過去に行なった政治的意思決定のうち引き延ばしにしてきた問題に、今回増税措置を通じて、真正面から対峙せざるをえなくなったということだ。

 また、消費税率を引き上げれば当然政府が購入する財・サービスについてもその分だけ余分に支払いが発生する。社会保障支出の具体的な内容をみると、個々には財やサービスを購入し、賄われている部門があり、これまでと同じ内容の社会保障支出であれば、増税分だけは跳ね返ってくるだろう。この跳ね返り分をどこまでを計算に入れるか、あるいはどのように分類するのかにもよるが、消費税率を5%引き上げたことによって、大雑把に言って1%程度はそれがそのまま歳出増に跳ね返る。即ち、その分は新たに社会保障財源として勘定するわけにはいかない。その他、社会保障の内容を高めなくても、日本社会は次々と高齢化している。高齢化に伴って医療費も拡大し、社会保障関連の諸支出が毎年増える。当然のことながらこうした言わば自然増を賄うにもお金が必要になる。このことは我々にとって、前年に比べ福祉が改善したという実感がないものである。病人の比率が増えたり、病気がより重篤になったりといったことに対する手当てでお金が消えていく。それに対して財政的な手当てをしなければ大変なことだが、この手当ては通常の意味において社会保障が充実したということにはならない。この分野の専門家の声によれば、そうしたものを並べていくと消費税率を5%を引き上げたとしても、本当の意味で社会保障充実に充てられるのは1%程度ではないかというあたりに落ち着きそうだ。

 今回の税と社会保障の一体改革にあたり、民主党は野党各党に声をかけ、法案を提出する前に国会内において与野党間の合意を作りたいという申し合わせをしている。民主党の幹事長から呼びかけが行なわれたが、自民党、公明党をはじめとする各野党の対応はそれほど簡単なものではなかったようだ。特に公明党は、この一体改革による社会保障の充実の内容を政府の手で明らかにした上で、話し合いに入るとしている。税と社会保障の一体改革によって国民がどのような改善を手にすることができるのかを確かめてからだという趣旨である。このことの背景には、5%の消費税率の引き上げのうち、質の改善に結びつくのはほんの僅かではないかという予測、推計が永田町の中でもかなり広がっていることがあるのだろう。

 現在5%の消費税率をたとえ2段階で10%に引き上げたとしても、それはこれまで手当てしてこなかったことに対する事後的な措置、あるいは高齢化等を通じて、次第に状況が苛酷なものになりつつあることに対する対応であり、本当の意味での財政再建あるいは社会保障の充実に繋がるわけではないということに我々はどこかの段階で気づくことになるだろう。通常は、資本市場あるいは海外の投資家は、消費税率が5%から10%に引き上げられれば、それによって部分的には財政再建の道筋ができ、国債の償還財源が付け加わるだろうと考えたい。もちろんとりあえずそう受け止めようと思っている人たちもいるだろう。今後、民主党そして政府の中でこの一つひとつの数字が煮詰められ、発表されれば、社会保障の充実あるいは財政再建のための財源として本当の意味で中身の確かなものは5%のうち1%程度に過ぎず、これまで放置されてきたもの、そして現状が日々悪化するものを手当てするだけに使われてしまうことは明らかになるだろう。財政再建のために国債の償還を引き上げるということになれば、10%に上げた消費税率を次は15%にしなければならない。次の5%は相当程度、財政再建を実現する方向、あるいは国民の判断でそれを社会保障の更なる充実のために使われることになるだろう。いずれにせよ10%から15%に消費税率が上がるとき初めて本格的にそうした議論がなされることに我々は気づかざるをえない。5%を10%にすれば、しばらくはそれでいけるという算段は成り立たないことについては、この1ヶ月くらいの間、あるいはもっと早く、議論になってくるのではないだろうか。

 こうしたことは野田首相にとってかなり辛いことだろう。解散総選挙を経過してでもこの道筋を明らかにしたいと野田首相は発言している。しかし、この増税を通じて、これまで目をつぶってきた過去の問題の穴埋めをするというほうが実体に近いということを国民の前に提示した上で、なおかつ野田首相が次期総選挙において過半数の議席をとる自信があるのかという問題に、次の政治局面は移るだろう。そういう意味では、2月に入る頃には当然議論の方向性は変わってくるのではないかというのが私の受け止め方である。

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