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理事長のひとこと

第234回 南米におけるコロンビアの位置付け

  先週、南米そしてパナマ、メキシコに出張してきた。CIPPSではエマージング・エコノミーの一つであるブラジルの景気動向を的確に判断するため、ブラジルにおいても日系企業の皆様にご協力をいただき、中国で行っている『写真機プロジェクト』と同様の仕組みを作っていこうと考えている。今回のブラジル訪問は、ブラジル日本人商工会議所の皆様を中心に、このとりまとめのお願いをする目的であった。その成果についてはまた別の機会にご報告するが、今回のひとことでは、初めて訪問したコロンビアについて話したい。

 コロンビアのボゴタに僅か2日半滞在しただけなので、コロンビアがわかったというつもりはないが、私が今回改めて感じたことは、コロンビアはかつて大コロンビアと呼ばれ、この地域において大きな一つの国家としてのまとまりを持った国であったということだ。
 アンデス山脈は、その端の部分で三つに分かれ、大西洋に落ち込むようになっているが、そのメキシコ湾に落ち込んでいくところにコロンビアは立地している。ボゴタの海抜は2600メートルくらいあり、全体的に山がちの国である。かつての大コロンビアは、今日のエクアドル、ベネズエラ、そしてパナマといった国々を含む大きな地域であった。今回コロンビアの様々なインテリの人々と議論してみて、かつてそのように多様な利害を持った地域や人々を一旦はレジームとして引き受けたことから、コロンビアには現在でも多様性についての理解の仕方があるのだと感じた。このことがコロンビアのインテリゲンチャを内側から鍛えてきたのだろう。
 コロンビアという国のこれまでの特徴は、麻薬密売やテロリズム等治安上、大変厄介な国だというものであった。実際、市民がトラブルに巻き込まれることもあった。ごく少数だが日本人の犠牲者が出たこともあり、日本の企業にとってみればとても全面展開する国ではなく、真っ当に取り上げられることのなかった国だと言える。

 しかし今回の出張で、中南米を考える際、コロンビアは一つのポイントとなる国だと感じた。その理由の一つはTPPを通じて、環太平洋への発想を彼らが持っていることである。
 現在、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉に南米からはチリとペルーが参加しているが、コロンビアはまだメンバーになってはいない。しかし、チリそしてペルーと同様、コロンビアも太平洋岸に面している国である。コロンビアは大西洋にも面しているが、今後は太平洋の方向に国内での開発を進めようと考えており、さらには、太平洋という自由な交易の場と投資の環境を作り上げたいと考えているようである。このことは私にとって大変興味深いことであった。それだけ環太平洋の吸引力が強まっていると言えるだろう。またコロンビアが、現在は大西洋を通じて繋がっているアメリカとの関係においても、未来の秩序として太平洋に賭けているアメリカと同じベクトルを持って接していこうと考えていることもわかる。
 コロンビアでは石炭を産出しており、山の中からそれを搬送し、大西洋岸の港まで運び、そこからアメリカに出荷するというのが現在のルートであるが、そのルートだけにはしたくないという理由のみでコロンビアのTPPに対する思い入れが説明できるわけではない。それだけではなく、未来の貿易投資環境を考える際、太平洋に投機したいという気持ちが大きいのだ。このことも非常に興味深いことであった。
 こうしたコロンビアの発想は簡単に出てきたものではないだろう。かつて大コロンビアと呼ばれたこの国には、広域的な地域で多様な問題に取り組み、規律を持つことが重要だということが根付いており、少なくとも他のラテン・アメリカ諸国とは異なり、財政規律の維持においては格段の実績もあったのだ。

 もう一つ、中南米でコロンビアがポイントとなると感じた理由は、コロンビアには、ブラジルとの対比で自らの位置づけを考えるという気持ちがあることだ。このことも私にとっては、大変新しい発見であった。
 ブラジルの北部のアマゾン川流域は大変な密林になっており、コロンビアのブラジルへの接触を阻んでいる。コロンビアにとって南への展開はこうした地理的要因に阻まれていた。隣国ではあるもののブラジルとの交流は簡単ではなかったのだ。そういう意味からか、コロンビアのブラジルを見る目にも相当冷めたものがあるようだ。
 ブラジルはエマージング・エコノミーの一つとして間違いなく大きな展開力を持っている。21世紀、ブラジルの国際社会における役割は現在よりさらに大きくなることは間違いない。しかしブラジルが国際社会に持ち出す貿易や投資の原則に対して、コロンビアの人々はそれほど楽観的ではないようだ。例えばこれまでブラジルはメキシコとの間において自由な自動車貿易を前提にしてきた。しかしごく最近、ブラジルの通貨レアルが対ドルで上昇する局面の中、ブラジルの自動車産業の輸出が難しくなるのに加え、レアルの上昇を前提に、メキシコ等から乗用車がブラジルに輸出されるようになった。日産自動車やマツダには、今後メキシコを拠点にしてブラジル向け輸出を増やそうという発想があり、現実にブラジルのメキシコからの乗用車輸入は飛躍的に拡大している。これに対してブラジルは待ったをかけた。今年に入り、メキシコに対して「関税率についてもう一度交渉しよう」という申し出をしたのだ。一般論で言えば、一旦決めた貿易枠組みに対して異議を差し挟んでいる状態である。これまでの歴史の中でも、大国ではそういったケースが見られた。ブラジルは明確に大国であり、中小国の意向にさほど配慮せずに自らの政策を決めてしまうところがある。ユニラテラルという言葉通り一方的に決めてしまう側面があるのだ。
 ブラジルが保護貿易に走ったというのは言い過ぎだろう。しかし国際的な仕組みに対して、自らの潜在的な市場の大きさのゆえに、諸外国に対して多少の注文をつけても何の不思議もないという考え方があるのは否めない。このことが今年に入ってブラジルがメキシコに対して、もう一度貿易交渉について線引きをし直そうと申し出たことの背景にあるのだろう。
 こうしたことをコロンビア側から見ると、南米の大国であるブラジルは行きがかりに応じて色々な提案ができる。もっと言えばグローバルな、あるいは二国間の一旦決めたルールの変更も勝手にできる面があるという意見になるだろう。コロンビアは、かつて大コロンビアという国を持ったことはあるものの、現在はブラジルほどの大国ではなく、与えられた枠組みの中で仕事をするという発想がある国だ。そういう意味から、ブラジルの行き方は、TPPのような仕組みには馴染まないのではないかとコロンビアの人々は考えているようだ。

 南米においてはブラジルのイニシアチブが非常に大きく、ブラジルの成長率が21世紀に入ってとりわけ好調であったことが、周辺諸国にもある程度プラスの影響を及ぼしていると、大雑把には観察していたが、コロンビアでの議論はこうした私の観察とは少し異なっていた。南米においては、大西洋に面しているところと、太平洋に面しているところとで、貿易と投資に関わる国際的なメカニズムについての理解が多少異なり始めているということが今回の出張での非常に面白い発見であった。
 20、30年前の南米はABCと言われていた。即ち、アルゼンチン、ブラジル、チリという国が骨格だと思われていた。また現在でもメルコスールというブラジル、アルゼンチンを含むこの地域の地域貿易協定が意味を持っていると教科書的には書かれている。しかし、実際のところはメルコスールという形で地域統合モデルが追及されるというより、TPPのようなより大きなものに対してベクトルを合わせようとしている国、あるいはそれに対してさほどの関心がない国とで二分していると考えると、チリ、ペルーそしてコロンビアという太平洋岸に面している国々には前者の発想が生まれているようだ。
 21世紀のラテン・アメリカを考える際、当然米国との経済再統合というテーマが一つあるが、この軸だけではなくもう一つ、太平洋、即ち自由な貿易と投資の仕組みに対する憧憬という形の軸があるようだ。その背景において、先述のように、インテリゲンチャに多様性を持った地域や人々をどのような軸で絡めとるのかについての発想があるかないかは大きいだろう。
 南米において注目すべき国としてのコロンビアというテーマが浮上したことが今回の中南米出張の私なりの成果であった。

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