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理事長のひとこと

第235回 プーチン新大統領と西側諸国との関係

  ロシアの大統領選挙でプーチン氏が当選した。5月に就任式があるそうだが、いずれにせよ6年間はプーチン大統領時代がもう一度始まり、そして持続することになる。
 プーチン大統領の新たな就任を控え、いわゆる西側での反応が少し微妙になっている。基本的にはプーチン体制のロシアに対して警戒心が非常に強いという特徴があると言えるだろう。その一つとしてミサイル・ディフェンスの問題を取り上げる必要がある。
 現在NATOは、ポーランドとルーマニアにイランから飛来するミサイルを打ち落とすためのミサイル防衛網を設置することを決めている。確かに地図を見る限り、イランから西ヨーロッパに対してミサイルが打ち込まれた場合、ルーマニアとポーランドはそれをまともに受けることになり、ミサイルを打ち落とすための施設を作る場所としては的確である。しかしロシアから見ると、このミサイル防衛網はイランを材料にしているものの、実際にはロシアから飛来するミサイルをインターセプトして打ち落とすための装置ではないかということになるようだ。
 かつて冷戦時代に両陣営の対立が苛酷なものになっていた際、腰のピストルを全て打ち落とされれば報復の可能性がほぼゼロになり、両手を挙げて降参しなければいけないことから、ミサイル防衛網がそのための装置として機能するはずであった。ところが、冷戦も終った今日において、ロシアがなぜこのNATOがルーマニアとポーランドに設置しようとしているミサイル防衛網をロシアに対する施設だと認定するのだろうか。
 この数年の経緯をとってみると、例えばグルジアで紛争が起き、それに対してロシア軍が攻撃を加えるということがあった。また軍事的というより外交的なテーマではあるが、ウクライナの帰趨を考えると、モスクワからは到底受け入れられない旧西側の外交的、軍事的なロシアに対する攻勢ということになるだろう。旧ソ連邦はグルジアもウクライナも含んでおり、これらの国々がNATOとの親和力を増しロシアに対抗することは、ロシアの国民感情がこれを許さないだろう。プーチン大統領はこのことを専ら代表するという形になりつつある。

 モスクワの新聞を丹念に読んでいる人によれば、ポーランドとルーマニアにおけるミサイル防衛網が本格的に設置されることになった場合、ロシアがカリーニングラードにミサイル基地を設置することは、ほぼ間違いないだろうという報道があり、それを信じる人も増えているようだ。カリーニングラードはロシアの飛び地であり、ポーランドに隣接している。ポーランドの主要な港であるグダンスクからもすぐの場所だが、もしここにロシアのミサイル基地が設置されれば、旧西ヨーロッパの首都にミサイルがすぐ届くという性格の基地になる。そうなればヨーロッパで新しい危機のシナリオあるいは軍事的な緊張が高まる。
 プーチン大統領がこうした全体をどのように制御するのかはいまだ明確にはされていない。旧西側とロシア側の双方がお互いに簡単には降りないというような問題が浮上してきているが、プーチン大統領の就任以降はどう推移するのだろうか。このテーマはプーチン大統領の6年間をほぼ決定づけるものとなる可能性がある。
 米国ではヒラリー・クリントン国務長官が、議会選挙における不正行為を例にロシアに対し非常に厳しい態度をとった。それ以降も基本的な姿勢は変わっていないように見受けられる。ベルリンでもロンドンでもモスクワに対してほぼ同様の厳しい姿勢がとられている。そういう意味でもどのようにこの問題を位置付けるのかはプーチン大統領にとって大きなテーマだろう。

 大統領選挙を直前に控えたプーチン氏が世界の主要なメディアと会見をした際、北方領土の解決の仕方について言及しているが、彼の発言は「引き分けに持ち込まないと、この話は解決への道筋がたたない」という内容であった。引き分けとは即ち、日本には日本側の、ロシアにはロシア側の言い分があるが、それぞれの言い分を100%満たすことでは解決の道筋はたたないだろうということだ。彼は同様に柔道の用語である「始め」という日本語も使い、「始め」を意識していると述べた。つまり改めて北方領土について議論を開始し、仕上がりは引き分けというのが、二国間の係争点を収める一つの着地点ではないかということのようだ。当然、何が引き分けなのかは、これからの議論によるが、プーチン氏はそうした思いを持っているようだ。大統領選に出馬意欲を持っていたメドヴェージェフ現大統領が北方領土について、ロシアの民族感情に訴えかけるような非常に強い姿勢で対応をしたのに対して、プーチン氏はもう少し冷静な対応をするということだろう。
 このように北方領土について引き分けを前提とした交渉を開始するのであれば、西ヨーロッパにおけるロシアと西ヨーロッパとの接続線におけるミサイル防衛網およびミサイル基地建設という話にどう繋がるのかが非常に興味深い。

 ロシアは今後、経済的に太平洋シフトに本気にならざるをえない。輸出している天然ガスや原油の大きな消費地が環太平洋にある、あるいは環太平洋の比重が高くなっている。このことに対応しつつ、ヨーロッパとアジアと両方にまたがる巨大なロシアが、これまで手薄であった環太平洋に向けての動きを始めているのだ。そうした状況の中で北方領土も位置付けるというのが一つの考え方だろう。さらにもう少し軍事あるいは外交戦略的に北方領土について言うならば、これまでロシアでも日本でもその時々のトップが北方領土という問題に打開の道はないかと探り続けてきたが、結果的には着地できないできた。このテーマをロシアが再び持ち出したことの理由には、環太平洋シフトという問題とともにヨーロッパ戦線におけるつばぜり合いを少しほぐすために、あるいは日本をはじめ、環太平洋の国々を別の形で引き入れるために、北方領土問題を位置付けている可能性がある。

 来週ロシアを訪問する予定がある。モスクワではロシア経済発展省とCIPPSとの間でシベリア極東開発の基本を巡る問題について1日討論をする予定だが、その前後に、現在ロシアの中でヨーロッパと向き合うどのような外交軍事政策が展開されようとしているのか、そしてそのこととの関係で極東の問題がどう位置付けられようとしているのか、複数の意見を聞きたいと思っている。

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