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理事長のひとこと

第254回 4年前と今日の世界の状況

  今回はオバマ大統領の二期目の就任式を前に、4年前と今日との間で、産業あるいは経済を巡るグローバルな状況がいかに変化したか、そして、その変化のスピードがいかに激しかったかについて触れてみたい。

 大きく二つのテーマを採り上げてみたいと思う。一つは未来のエネルギーというテーマである。この4年間に未来のエネルギーは変わってしまった。これは『シェール革命』がそれだけ大きかったことを示している。もう一つはITの世界において、担い手が全く変わったというテーマである。この4年間で情報へのアクセスの方法は、携帯端末から多機能端末、iPhoneへ全く変化した。

 まず、第一に触れなければならないのは、『シェール革命』であろう。4年前、オバマ大統領は就任に当って『グリーン・イノベーション』を掲げ、再生可能エネルギーについて相当の思い入れを述べた。この際、石油やガスあるいは石炭といった過去のエネルギーに対して、未来のエネルギーは太陽光や風力等の再生可能エネルギーであった。しかし実際には僅か4年間でアメリカのエネルギーの柱は、化石燃料の一つであるシェールガス・シェールオイルに変わった。オバマ大統領が『グリーン・イノベーション』を掲げた当時は、太陽光パネルや風力発電の風車の製造といった分野にそれなりの投資が行われ、収益の期待も広がっていた。しかし、それが見事に打ち砕かれたのだ。現在、太陽光パネルの生産はアメリカでもヨーロッパでもまったく不振である。一方、中国における太陽光パネルは今や生産過剰と言える程であり、これが世界中を席巻している。しかしその中国においてさえ、太陽光パネルで利益を出すことは極めて難しい。
 日本においては、再生可能エネルギーを導入するに当たり、固定価格の買い取り制を導入した。太陽光パネルは42円という値段で買い取ることに決まったが、実際の大雑把な生産コストは約30円と言われている。つまり、個々の家計から42円で買い取り、10円は利益として計上されることになる。再生可能エネルギーを定着させるためには、供給者側に投資をしてもらう以外なく、ある種のインセンティブ、即ち供給を促す「味付け」が必要なことは明らかである。しかしそれにしても42円は高すぎるという議論がこれからは強くなっていくだろう。世界の電力価格の中でも日本の電力価格は圧倒的に高い。しかも今後は幾つかの電力会社によって値上げのスケジュールが待ち構えている。そうした背景を考えても、昨年から始まった再生可能エネルギーの固定価格での買い取り制度の定着は、おそらくかなり早い時期に揺らぐことになるだろう。
 北米を中心に、わずか4年前に過去のエネルギーとされていた化石燃料が大手を振って歩く時代に変化している。これはエネルギー費用に関係する話のみではなく、化学品の原料という面もある。コモディティと呼ばれる大量に作られ、差別化が難しい製品についても、北米で作ることが極めて理にかなった仕事ということになる。こうした意味から、化学産業の立地にも大きな影響が及ぶだろう。
 また、化石燃料への依存が再び強まる中、ずっと議論されてきた地球環境問題、温暖化ガスの排出の問題は一体どうなるのかというテーマも残る。このテーマについては、世界各国において、地球温暖化の問題より雇用水準、特に若い人たちに職場を用意できない社会をどうにかしなければならないという問題の方が重くなっており、地球温暖化問題はとりあえず棚に乗せられ、実務の世界で的確に処理されることが非常に難しくなっていると言えるだろう。

 二番目にITの分野についても触れたい。オバマ候補が2008年の大統領選挙を戦うとき、彼がブラックベリー(BlackBerry)を愛用していたことは広く知られている。当時、私もカナダのオンタリオ州のリサーチ・イン・モーション (RIM) という会社が作ったブラックベリーが北米において圧倒的なシェアを取っていたことを良く覚えている。付き合いのあった大学教授や研究所の研究員の殆どがこのブラックベリーで情報にアクセスし、知人とのコミュニケーションをとっていた。しかし、それから4年経った昨年、ブラックベリーのシェアはどんどん低下した。ノキア(Nokia)についても同じことが言えた。携帯端末が一挙に多機能端末に変わっていったのだ。アップルが一人勝ちだったかどうかはともかく、スティーブ・ジョブズに率いられたアップルが導入したiPadやiPhoneが世界を変えてしまった。これらはこの間、電子部品の世界においても圧倒的な力を持った。そういう意味において、この4年間でITの分野でも大きな流れが変化したと言えるだろう。

 このように、8年に亘るオバマ時代は、一期目の始まりと二期目の始まりにおいて大きな違いがある。アメリカあるいは世界を巡る経営課題というテーマがどの分野においても根底から取り直されることになる。個々の企業経営者にしてみても、この4年の変化は大変厳しい、大きなものであったことは明らかである。この変化により、売上が突然立ちにくくなった。太陽光パネル等について言えば倒産した企業の方が多い。アメリカに限らずヨーロッパにおいても、未来を展望することは、簡単なことではなくなった。我々にとって、わずか4年先を見通すこともほとんどのケースにおいて簡単ではなくなったのだ。
 こうした中、これからの4年は、何を根拠にどのような展望を作ればよいのだろうか。現在、我々CIPPSでは、研究員総がかりで、新しい日本の経済産業ビジョンを作成している。日本の産業社会に確実に押し寄せているテーマを日本の企業の特徴を生かしながらどのようにこなせるのかというものであり、今年3月末を目途に報告書の完成を急いでいる。先行き展望が難しいことは百も承知の上で、こうした領域に踏み込むことが研究所の役割だと思い、歯を食いしばってこの分野に挑戦しているところである。

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