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理事長のひとこと

第258回 シェールガス革命と新しいエネルギー情勢

  今回は米国のシェールガス革命とそれが石油需給に与えた影響について述べてみたい。

 昨年一年をみると、米国の原油純輸入量は日量714万バレルであった。中国は日量572万バレルであったので、一年を通してみれば中国より米国の方が多かった。しかし昨年の12月だけとってみると、米国の純輸入量は598万バレル、これに対して中国は612万バレルであり、1カ月だけのデータでは今後のことは言い切れないものの、中国が初めて米国の石油純輸入量を上回り、いよいよ世界最大の石油輸入国という姿になっている。米国が石油の純輸入を減らすことができたのは、よく言われているように、米国でシェールガスの生産が拡大したことが理由である。
 在来型のガスは地層の中にガス田という大きな塊として溜まっていて、大変流動性が高いものである。言うならば、在来型のガスは掘削して穴をあけると湧き出してくるものである。これに対してシェールガスは、頁岩や砂岩のような緩い岩の間に層になって、横に繋がる層の中に流動性の非常に低いガスとして存在している。したがって浸透率が非常に低く、どこにも出ていかないガスであるが、問題はそれをどうやって回収することができるのかということであった。流動性が低く、浸透率も低いシェールガスが頁岩の中に存在していること自体はわかっていたため、米国の業者は何とかしてこの新しいガスを引き出そうと考えてきた。今回開発された手法としてイノベーティブであったのは二つだと言われている。一つは穴を掘る際、縦に掘るのではなく、横に掘る手法である。シェールガスは、大変薄い頁岩の中に層になって存在している。地下において横に繋がっているこの層に合わせて水平に穴を掘ることによって、このガスの回収効率を高めることができた。即ち、水平に掘削する技術が開発されたのだ。もう一つは溶剤と水を使って人工的に割れ目を作り、そこからガスを回収する水圧破砕(フラクチャリング)によってシェールガスを回収するという手法である。これらの手法により、あっという間にシェールガスは焦点となった。このシェールガスは在来型のガス田に比べ、地球上に相当多く存在すると言われている。3倍くらいだとする説もある。
 当然、米国だけではなく中国にもシェールガスが存在すると言われている。しかし、現在の掘削手法であり水圧破砕では大量の水が必要になるため、水が大変貴重な中国にしてみれば、水が必要なのかエネルギーが必要なのかという議論にまで進む可能性がある。そういう意味で中国は、技術的にはシェールガスを取り出すことができるかもしれないが、当面本格的にシェールガスを掘ることはないと考えられている。

 今後、米国では石油にあまり依存しないことが可能になるだろう。即ち、石油の消費量が落ち、シェールガスがそれを埋めていくことになるだろう。現在既に米国の石油会社であるエクソンモービル等は、ガソリンや軽油等の石油製品を海外に売らざるを得なくなり、ラテンアメリカ諸国やアフリカの一部の国々にも売っている。これも米国の石油純輸入量を大幅に下げることに繋がった。
 もともと中進国や、いわゆる開発途上国における成長率が高いため、従来の先進国であるOECDの消費量とOECDに加盟していない中進国、開発途上国の石油消費量はどこかで交差する。即ち、先進国の方が石油消費量の少ない時代がくるだろうと言われていた。IEAの推計によれば、2013年には非OECD諸国の石油消費量がOECD諸国の石油消費量を上回ることになる。そういう意味でこの2013年は非常に興味深い年になりそうだ。中国が米国を追い抜き世界一の石油純輸入国になるとともに、中国を含む非OECD諸国が石油の消費量において先進国を上回る時代をいよいよ我々は迎えようとしているのだ。

 こうした背景の中、我々がこの30年程の間『シーレーン防衛』と呼んできたことの内容が根底から覆ってしまう可能性が既に出てきている。米国はホルムズ海峡を防衛するために空母を派遣しているが、最近その稼働はかなり落ちていると言われている。依然としてサウジアラビア、クウェート等から米国に油は入ってきているが、そこに依存する比率がどんどん低下している状況においては、当然従来に比べてこの地域の安全が米国の安全保障に与える影響は小さくなる。このため現実にオペレーションは低くなりつつあるのだ。米国内においては、財政上の理由から『国防費削減』という大きな要請もあるため、それに呼応する面もあり、石油輸入に依存しない体質に大きく転換する道をとることになる。
 他方、中国は石油消費量が増えるとともに輸入量も増えており、経済安全保障を考え『シーレーン防衛』を行う必要性は米国よりも中国の方が高いという見方も出てきている。現実に中国は海洋軍拡を進めていて、巡洋艦あるいは空母も一部就航し始めている。長い目で見ると、中国はホルムズ海峡やマラッカ海峡等に関心を寄せざるを得なくなるだろう。そして、この海域は日本が中東から油を買う海域とまったく重なる。これまでは米国の第7艦隊が日本のタンカーを守ってくれていたと言えるが、今後は米国の第7艦隊の影がだんだん薄くなると考えた方が自然だろう。そして中国の海洋軍拡が進む。 米国の艦隊でも中国の艦隊でも海賊を蹴散らしてくれるのであれば、それでいいのではないかというほど話は簡単ではないだろう。中国がそうした力量を持った際「ついでだから日本の油も守ってあげましょう。気が引けるようでしたら分担金を少し負担していただいても結構ですよ。」という言い方をすることもあり得る。その際日本はどうするのか。「有難うございます。お言葉に甘えて。」と答えるのか。あるいは、そんなことをすれば日本の生命線は中国によって締められてしまう可能性があると考え、とんでもないという反応をするのか。いずれにせよこれは日本が決める話であり、長い目で見てどうかというテーマが登場するだろう。

 このように中東から東アジアへの海域だけが問題となるわけではない。米国の変化は当然、グローバルに世界中に影響を与えつつある。米国の中で石炭を焚くこと、そして新規に原子力発電所を作ることは、当然のことながら比重が小さくなっていくだろう。電力会社にしてみれば石炭火力は煙の問題、CO2の問題もあるが、シェールガスの方が排出する温暖化ガスは小さくて済む。原子力については色々なリスクがあり、発電会社がどこまでそのリスクを負えるのかというテーマがついてまわる。米国内ではこうした分野の重要性は次第に消えていくだろう。こうした中、既に米国で大量に産出される石炭はヨーロッパに流れている。シェールガスが山元で大きく値段を下げている状況により、石炭の値段も下がっている。余った、安くなった石炭は販路を求めてヨーロッパに入っている。ヨーロッパでも全体として生産水準が低くなっている現在、安い石炭を購入して、焚いたとしても、前年比で見て温暖化ガスの排出がそれ程増えるわけではない。これがヨーロッパに大きな変化を及ぼすことになる。
 これまでロシアはヨーロッパに天然ガスを売っていた。売る際は、ガスはウクライナを通り、ドイツを通り、フランスを通ってイタリアにまでいっていた。イタリアに着くまでにはガス圧が低くなるという問題もあり、ウクライナで少しガスが抜かれるという事件もあったようにロシアがヨーロッパに売るガスについては様々な話題、争点があった。こうした背景から、ヨーロッパにおいて石炭に振り替わる分だけロシアのガスに依存しなくても済むと考えられた面もある。逆に言えば、ロシアはこれまで売っていた在来型の天然ガスの売り先に困るようになり、売り先を世界中で探さなければならなくなるのだ。
 ガスの場合、石油と異なり、溜めておくことができない。石油の場合はタンカーで運び、溜めておくことができるが、天然ガスの場合は、パイプラインで繋ぐか、あるいは液化天然ガス(LNG)という形で持っていくことになる。このことから、パイプラインの場合も、液化天然ガスの場合も『one-to-one correspondence』の関係になると考えられるだろう。原油の場合、貯蔵しておいて、入札させ、高い値を出したときに売るということができる。しかし、LNGの場合は液化する段階においてそのための設備が必要となり、使用する際には液化したものを気化する設備が必要となるため、それがないところに持っていくわけにはいかない。状況によって異なるが、2年、3年あるいは4年というある程度の時間をかけて設備を作らなければLNGは扱うことができない。パイプラインもその導入に当っては、安定的な市場、安定的にユーザーがいるという前提のもと『one-to-one correspondence』が当然必要になる。ロシアはヨーロッパに売っていた天然ガスが売れなくなれば、それではどこに持っていくのかという根底的な問題を抱えることになる。中国との間にもパイプラインが開通したので、中国に持っていけばいいのではないかということになったとしても、当然ここでは値段交渉が繰り広げられることになる。

 このようにシェールガス革命は遂に足元までやって来て、油の需給に大きな影響を与え始めている。中国の場合、まだこのガスを使うという領域は必ずしも広がっていないため、現在はスーダンやアフリカ諸国からも原油を買っているが、購入先で問題を引き起こすこともある。米国の石油需要が落ちるこうした石油情勢を考えると、中国をはじめとしたエマージングエコノミーで経済調整が起きたとすると石油の値段もかなり低くなるのではないかと考える人が出てきても不思議ではない。米国においてシェールガス革命を通じてシェールガスが次々に生産され、山元ではこれが余り気味になり、値段が下がる。当然石油需要は落ち、値段も下がる。これに中進国の経済調整が重なった場合、油の値段が下がるというシナリオは当然登場するだろう。

 ごく最近、ブリティッシュ・ペトロリアム(British Petroleum)はオーストラリア等で生産された従来ガスのLNGを売るに当たり、これまでほとんどのケースで原油価格に連動する価格設定であったその値段を、原油連動ばかりでは石油会社はリスクを十分回避できないかもしれないという理由から、10%あるいは20%程度をリスクヘッジのために、米国の天然ガス基準価格である『ヘンリーハブ』(米ルイジアナ州の天然ガス集積地)連動、即ちシェールガス価格に連動する形で従来型のガスを売るという契約を進めている。これも本当に驚くべきことである。
 日本の場合、これまでLNGの価格は原油連動であり、大変高いものであった。「何故これだけ高いものを日本だけ買っているのか、調達の担当者が少しサボっていたのではないのか。電力会社は総括原価方式で買い手に値段を押し付けられるため、調達に当って十分な工夫がなかったのではないか。」という意見さえあった。しかしリスクヘッジのためにLNGをヘンリーハブ連動で売るという石油企業が出始めたということは新しい状況である。足元のヘンリーハブ価格は低下が続いている。全てがそうした契約に振り替わるわけではないが、売り手側もリスクヘッジを考えている中、日本にもそうした在来型のガスがLNGで入ってくる可能性もある。
 ちなみに米政府が輸出許可すれば、米国のシェールガスがLNG化されて日本に入ってくるのは2017年頃と言われている。そのときにはパナマ運河の能力が拡大しているだろう。来年2014年には大幅に能力を拡大したパナマ運河が開通し、大きなLNG船がこのパナマ運河を通ることができるようになり、その分だけ運賃は下げられる。2017年頃にはこの新パナマ運河を経由して、米国から日本にシェールガスがLNGという形で入ってくることも考えられるのだ。

 このように我々にとってエネルギー情勢を左右する要因が相当増えてきている。契約ベースでも新しいものが登場し始めるのではないかという状況が起きている。

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