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理事長のひとこと

第262回 米国の安全保障政策とエネルギー

  今回は米国の安全保障政策とエネルギーとの関連について考えてみたい。

 米国政府が財政的に追い込まれていることは既によく知られている。そしてこのことは連邦政府の中においても明白な制約条件になり始めている。米国が世界の警察官を再現することは当然不可能であり、たとえ環太平洋における中国との衝突を想定した場合でも、関与の度合いを現在の水準から飛躍的に高めることは難しいとする見方も広がっている。こうしたことからpivot(軸)を環太平洋に移す。すなわち、他から軍事上のリソースを剥奪してきて、それを環太平洋に充てるという戦略が浮上しているが、最近ではこれにもう一つエネルギーという項目が追加された。すなわちオバマ政権の中で浮上してきている「米国におけるシェールガスの増産およびシェールガスの採掘に伴う原油の増産を安全保障の手段として明瞭に位置づけよう」という動きである。一言で言えば、連邦政府が多くのリソースを割くことなく、民間の活力に依存し、また地域的にも米国のみではなく、同盟国に対する広がりの中で安全保障政策の裏打ちをしようという考え方がこれであり、当面、日本および中南米の二つを頭に置いて議論されているようだ。

 まず日本については、増産されたシェールガスをLNGという形で日本に輸出することについて、連邦政府はできるだけ早く許可を出そうと考えている。これにより日本のエネルギー費用を下げることができれば、結果として日本の経済活力の復活に寄与できる。しかも連邦政府として支出する必要はない。連邦政府は許可を出すのみであり、民間の事業者間の契約で進む事柄である。
 米国内の一部の業界には、シェールガスの値段が高くなると米国におけるエネルギー費用あるいは化学品のコストが上昇するため、LNGという形で簡単には外に売らない方がいいという考え方もある。たとえばダウケミカル社などはそうした主張をしている。これに対して連邦政府には「それはあたかも中国がレアアースをいざという場合に輸出抑制したのに近い話だ。民間企業同士が契約ベースで話を進めようというとき、自らの業界の利害のみによってLNGという形での輸出を抑制すべきだという議論は、マーケットドリブンを前提とする米国経済にはもともと馴染まない話だ。」と陰に陽に言えば業界も黙るだろうという感触があるようだ。
 こうしたから、まずLNGの基地を作る等の投資に踏み切る必要があり、少し先にはなるが、日本の電力会社がシェールガスをLNGの形で輸入すること自体は実現するだろう。
 米国では、FTAであたかも一国のような経済システムをとっている国は別にして、一つひとつの案件について連邦政府の許可が必要になる。日本にLNGとして輸入することになった場合、日本はまだTPPに加盟しているわけではなく、当然、連邦政府が不都合はないと認定する必要があるが、どうやらオバマ政権はそうした認定をするようだ。このことに広い意味での安全保障政策の裏打ちとして天然ガスを使う意思決定をしたことが表れている。

 さらに中南米については、南北アメリカを全体として考えても、外のエネルギー資源に依存しなくても経済繁栄は実現することを一つひとつ示そうとしている。2020年のアメリカのエネルギー情勢を考えてみると、ガスも原油もネット(輸出入引いた純ベース)での輸出国になることが予想される。その恩恵はこの南北アメリカに共通だというのが米国における論調である。
 米国でシェールガスが発見されたことにより、米国の製造業が経済活力を回復するのではないかという説があるが、これが米国内のエネルギー産業と化学産業にのみとどまっているのであれば、経済活力の回復は限られたものになる。しかし、シェールガスの増産が中南米における経済の自由化と相対的に安いエネルギーコストに繋がれば、中南米諸国の経済の活性化も当然持続的なものになるだろう。そうなれば、中南米市場に対して米国の製造業、たとえば発電所の炉を製造販売する業務、あるいはエネルギーの観点から都市全体のマネージメントを行い、スマートシティを作るという業務について、米国の事業者の下にその商談が舞い込む可能性が高まる。このような全体としての底上げという意味においては、米国の活力も高まることに繋がる。そうなればこの地域における安全保障は、より堅牢なものになり、安全保障のresiliency(弾力性)、耐性が非常に高い仕組みとなるだろう。広がった経済圏から活力を引き出しつつ、その中で米国の活力をもさらに高めることは誰にとっても悪い話ではない。米国内における雇用や生産、投資等にも良い影響を与えることは間違いない。こうした形で今回のシェールガス革命を位置付けようという考え方が登場しているのだ。

 日本でも東アジアの勃興の中、その活力を日本に引き入れたいという考え方がある。これがTPPを推進する一つの立場でもある。米国の場合はこうした考え方がシェールガスという形で、より目に見える形で提示しやすくなったと言えるだろう。今後オバマ政権の下では、安全保障を高めることについて、エネルギーを使い、広いベースで、経済的な枠組みをより堅固なものにしようという問題提起が登場するのではないだろうか。
 変容する安全保障観が米国で議論される際、我々が何を手掛かりにどのような形でこの安全保障問題を捉えてよいのかについては、少しベースを広げて考えねばならないところにきていると言えるだろう。

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