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理事長のひとこと

第264回 プーチン体制の今後

 ルーブルが下がって原油に依存したロシアの経済がどうなるのかということですが、ロシアの中では今年の成長率はマイナス5%程度という予測が一番多いようです。またそれが来年以降となるといろいろ議論の仕方があるのですが、一番大きなテーマはロシアが大きく関与した、いわば国有企業と民間企業の対外債務であり、今年中にリファイナンスの必要が出てくるのが1,000億ドルくらいあります。ロシアに対する経済制裁が強化され、ウクライナ東部では、ロシア系の分離主義者の軍事行動が強まっていますから、本気になってこれから、ロシアに対する経済制裁が行われるとなると、今年だけでなく来年以降もこういうリファイナンスに西側の銀行が応じる可能性はないということになります。現在ロシアの外貨準備が3,800億ドルくらいあると言っていますから、とりあえずリファイナンスは何とかするのでしょう。しかし、経済制裁が続き、海外からのファイナンスが受けられないため、マイナス成長が確実視されている中で、投資が起きるわけはないというのは当たり前の推測です。従って今年がマイナス成長だというだけではなく、来年以降の展望がないというのが、今のロシアの現状だと思います。

 今、世界中の研究所や情報機関が、プーチン体制は一体どうなるのか、ポストプーチンというのはどう考えられるのか、枠組みだけでも少し議論したいというのが、私の知る限りの国際的な流れです。それでは誰ならロシアの情勢について正確に述べてくれるのか、そんなにたくさん西側に対して発信しているわけではないのですが、例えばユルゲンスという人がいます。この人はInstitute of Contemporary Developmentという研究所のトップです。メドベージェフ大統領の時のブレーンです。ユルゲンスの研究所はモスクワの庭のついた良い場所にあります。彼は、プーチンの重んずるのは二つだと言っています。一つは選挙の時に投票してくれる古い世代の人達、要するにソ連邦の時代に郷愁を持っている古い人達、ソ連邦の解体が今日のロシアの苦労の元だと思っている人達が、プーチンを実際上支えている一つのコアだと言っています。従ってこの人たちに報いるために年金は、一応発表されている物価上昇率で言えば、昨年は11.4%消費者物価が上昇していて、この11.4%の物価上昇分を年金給付に反映させる。こうしたインフレスライド条項を実施して、高齢者にとにかく報いると言っています。それからもう一つのコアが軍や、情報機関関係者で構成されるシロビキと言われる、今日のプーチン体制のエリートの人達です。この人達がプーチンを押しているわけですが、ここに金を使うということです。グルジアの危機がありまして、ロシア軍が投入されたんですが、その頃のロシア兵の服装はものすごくうら淋れてまして、保持する兵器も相当古いものだったと言われています。あれからもう6年くらい経っているのですが、この間ロシア軍の軍人の服装とか、装備とか、兵舎などの改善がものすごく進み、例えばウクライナ国境へ動いているロシア兵の練度は、装備も含め格段に改善しているというのが西側の評価であり、この間プーチンがいかにこの人達、こういうところに資源を使ったのかということになります。

 もちろんそれだけでプーチン政権が続いているわけではありません。今言った古い時代の「あの時代は良かったな、ソ連邦時代は良かったな」と言っている人と、軍、安全保障、治安関係者だけでは持たないので、当然、物事を少し合理的に考える経済学者もプーチン陣営に参加しているのは当たり前です。この人たちとシロビキとの力関係はどうなのかと言いますと、ユルゲンスによれば経済学者は結局のところ、プーチン体制から弾き出されて、彼らの意見が通ることはなかったというのです。因みに、メドベージェフからプーチンに代わるとき、メドベージェフは大統領でしたから、もう一期やることはできたのですが、結局プーチンに譲ったのです。ユルゲンスは絶対に譲るなとメドベージェフに仕掛けていたのです。私はその時にモスクワの彼の研究所で彼に聞いたのですが、彼はメドベージェフに「この一週間が勝負だ、プーチンに反対してでも正面からやれ」と言っていたのです。同じとき、クレムリンのことをよく知っている他の人に聞いたら「勝負はついた、メドベージェフは腰が砕けたからもうダメだ」と言っていました。「でも今ユルゲンスに聞いたらこの一週間が勝負だと言っているぞ」と聞いたら、その人物は「ユルゲンスは分かってない。彼は知らないが、メドベージェフとの間に既にいくつかのフィルターが入ってしまっていてユルゲンスはもうこれを理解できないでいる」と言っていました。その人物が言うには、プーチンが大統領に出るという与党の会議で、メドベージェフが挨拶に立った時、プーチンは物凄く不安で、一応了解を得ているけど、「次はプーチンにやってもらう」と言うか、最後の最後までプーチンは確信が持てなかったらしい。最後の公開の場で与党の次の大統領候補をどうするかという時に、メドベージェフが再び出ると言うのではないかと、ギリギリまで不安な表情で見ていたようです。そのくらい拮抗していたというか、非常に微妙なタイミングだし、少なくともその話を聞くとプーチンはメドベージェフに「お前は降りろ」と言うことを、腕をひねるようなやり方でやったわけではないのです。与党の総会の前日に話し合ったと言われていますが、少なくともふん縛るようなものの言い方は、プーチンはメドベージェフに対してはなかった。ここが今の中国とロシアがやっぱり違うというところだと思います。因みに世間では、プーチンが戻ったらユルゲンスの研究所は潰されると言われていました。しかしユルゲンスの研究所は潰されていません。彼は海外に出てスピーチをすることも議論することもできますし、アメリカにも出られます。言いたい放題とは言えませんが発言しています。その発言内容は今言ったようなものです。ごく最近、彼が言っていることは、結局プーチンを支えているのは高齢者や軍関係者で、合理的な経済的発想をしている人達は排除されたということです。排除された最大の理由はウクライナです。ウクライナは絶対手放さないというのが、ソ連邦の時代に郷愁を持っているロシア人であり、こうしたナショナリストが、今プーチンの支持率が80%という事実を考えれば、国民の半分くらいはいるのでしょう。ウクライナは手放しては駄目だという議論に組みする人が4割か5割かわかりませんがそのくらいはいます。そこに重点を置くと、合理的な経済を運用しようとする人達が排除されざるを得ないということになります。それの筆頭が多分クドリンだと思います。

 クドリンはメドベージェフ時代に大蔵大臣だった人で、こんなアホなメドベージェフに付き合っていられないと言って辞めたのです。それは背景にプーチンがあるだろうと言われていて、クドリンとプーチンは相当仲が良いはずなのですが、ごく最近は、クドリンはロシア経済が非常に厳しいと言うようになってきました。ロシア企業は海外の債務残高があり、返済の時に普通はリファイナンスがきくんですが、今の経済制裁の下ではリファイナンスがきかない。そうすると今年だけで1,000億ドルリファイナンスしなければならないが、1,000億ドルはリファイナンスができないので、結局手持ちのドルでこれをリファイナンスするという形になっています。ロシアの中でこんなことをいつまでもできるわけがないと、クドリンが発言するようになっています。従って、プーチンを支えていた経済学者も離れ始めているかなと考えると、これからどうなるのか、誰もわからない領域に入るということだと思います。共産党時代から生き残ったすごい「起き上がり小法師」みたいなのが何人かいるのですが、そのうちプリマコフという人がいます。これは共産党時代、ソ連邦時代に、中東関係のインテリジェンスをやっていた人ですが、プリマコフもごく最近このやり方ではうまくないと言い始めています。ロシアの経済は本当に難しくなると言っていて、プリマコフは間違いなく風見鶏です。私は、クドリンには会ったことはないのですが、プリマコフには会って議論したことがあります。プリマコフは、ソ連邦が解体した時にいろんな仕事をしていたのですが、エリツィンの時には首相を短期間務めました。私が会った時の肩書きは、ロシア商工会議所会頭で、ビジネスマンでもないのに商工会議所の会頭をするというのは、これはロシアの産業近代化がいかに遅れているかということです。商工会議所の会頭というのは産業界或いは、民間企業へのある種の補助金であったり、インフラの整備であったり、こうした要望を間に入って政府に伝える人です。ソ連邦時代から、酸いも甘いも噛分けられる人がいいのではないかということで就くんですね。私が会った時はまだ、油の値段が物凄く上がる少し前だったのですが、その時に彼は何と言ったかというと、「こういう時には民間企業を支援する仕方はいろいろある」と言うのです。商工会議所の会頭ですから、「政府与党に民間企業の負担を軽減する措置を要望している」と言うので、「減税ですね」と言ったら、「いや減税でなく、政府が少し仕事をセーブすることだ」と言うのです。それは警察とか食品衛生事務所、或いは消防署の人達が企業に行かないようにするということなのです。どういうことかというと、そういう人達が行くと、何かと支払わなければいけないらしいのです。何かをやってないとか、何かがついていないとかと言って罰金として支払わせる。食品衛生法に基づいて何だとか、警察は何をやるのかよくわかりませんが、いろんな人がうろうろすると企業の負担が凄くきつくなります。だから企業の負担を軽くするためには彼らに回るなと言ってくれというそうです。

 信じられないかもしれませんが、ちゃんとquoteしていいかと聞いたら、quoteしていいと彼がいいました。それが現実です。だからロシアの産業近代化が遅れていて目途が立っていないのは、いろんな原因があるのですが、少なくともプリマコフはそう言いましたから、ロシアの企業経営には予測可能性が非常に乏しい。税率でない話ですから、どこで引っかけられるかわからない、どういう請求書がそのような監督機関から回ってくるかわからない、その時にはちゃんと払わないとその人たちは帰らない、ということを商工会議所の会頭が言うような現状です。このプリマコフが今のままではまずいと言い初めました。これからどうなるのか、非常に難しいところですが、今のウクライナをめぐる情勢はより悪化しています。ヨーロッパでこれを決めることができるとすれば、それはメルケルだと言われています。要するにメルケルとプーチンとの間でぎりぎりウクライナの話を処理するという形です。メルケルが、プーチンに物凄く強く当たる以外にないと腹を決めたのではないかと言われています。それではこのメルケルとプーチンという組み合わせはどうなのか。ベルリンの壁が落ちた時に、メルケルは東ベルリンにいて、プーチンはドレスデンにいました。メルケルは牧師さんの娘で大学の先生、ドレスデンにいたプーチンはKGBで、当時の東ドイツの秘密機関の情報網を管理していた。ベルリンの壁が落ちた時に、情報機関は東ドイツの協力者の名簿を持って出国するのが不可欠でした。この持って出るというのは陰謀世界の場合、残地謀者(ざんちちょうじゃ)というのがあるからです。連絡先からリストからその全部の見取り図を持っているのはプーチンのような立場の人です。そのような全体を見渡すものを売られたり、どこかで取られたら情報機関は消滅してしまいます。普通の位置づけの情報担当者は相対でしか繋がっていかない。全体で分かっているのはプーチンみたいな人で、彼は焼却せずに持って出た、ピストルを携えて民衆の包囲網を切り抜けて出た人です。このようにメルケルとプーチンとは東ドイツの体制が崩壊する時に、同じ東ドイツで呼吸していたので、お互いを物凄くわかると言われています。私はメルケルのロシア語は物凄くうまいと聞いていたのですが、ブリスベンで先日G20の時に数時間にわたって二人だけで部屋で議論していたらしいのです。どういうウクライナにするか、ずっと対話をやっているのですが、まだ着地できない。ウクライナについてヘンリーキッシンジャーが、シュピーゲルというドイツの雑誌に、「ウクライナは、ウクライナが、ウクライナの政治リーダーによって、勝手に決められるものと考えないほうがいい」と言ったのです。ここまで難しくなっている政治的な情勢の中でウクライナは追い込まれています。放っておけば明日にでもデフォルトしてしまうので、IMFはもちろんのこと日本政府も融資を出せと言われている。とにかくつながないとウクライナはもうデフォルトになります。そのウクライナをどうするのかということになれば、EUの周りでも、本当にウクライナ全部の面倒を見るのかという感じになっています。そういう中でヘンリーキッシンジャーが勢力圏というのがやっぱりあるのではないかという類の話をしたわけですね、リアルポリティックというのはそういうものだと言われればそれまでなのですが、ウクライナが勝手にNATOに入りたいとか、EUのメンバーになるということは、ロシアとの関係においてそんなことはあり得ない、ウクライナにちょっと目を覚まさせろ、ということをヘンリーキッシンジャーがドイツの高級紙で言った。それで、これはある種着地点、EUにとっても着地点かなという感触が少しずつ広がっています。

 しかし軍事的には、ちょうど尖閣での中国と日本の防空識別圏ではないですが、イギリスの戦闘機とロシアの戦闘機が異常接近しているらしく、物凄く近くなって危ないと言われているのです。ですからNATOはウクライナで分離主義者というロシア系の人達がやっているのは本気だと思っています。要するに政治的な何かの獲得なのです。クリミアの話はもう誰もしません、クリミアはロシアです。それで問題は東部ウクライナなのです。ロシア語を話す人がだいたいコミュニティの中で3、4割というところがウクライナ東部。ここはウクライナといっても、これからどういう結論になるかですが、高度自治とするのか、どういう形にするのか、そのギリギリの政治闘争がこれから起きるということです。その間は逆に言えば経済制裁が解除されない、しかし経済制裁が解除されなければ、ロシアはどうなるのかという話で、ロシア産業の近代化が進むのではないかということは一応言われています。

 メドベージェフは今首相です。ここのところずっと彼のステートメントを見ていると、ルーブルが下がって、そして経済制裁下におかれたロシアにとって、逆に言えば経済近代化の絶好の機会だと、付加価値体系を、油以外の付加価値連鎖をロシアの中に作る好機だと言っています。しかしプログラムらしきものはどこにもないと言われていて、我々がロシアの研究所に行って、「ロシア産業近代化のプログラムありますか?」と聞くと「そんなものはないよ」と、「では経済発展省にはありますか?」と聞くと「経済発展省にもそのプログラムはない」と言われています。どうすれば産業近代化は実現するのかということについてのプログラムはないと言われているので多分ないでしょう。メドベージェフがそういう物の言い方だけはしているという現状ですから、おそらく10年の単位でロシアの低迷は続くでしょう。ロシア人は我慢強いが、今後は本当に食べられなくなる。食糧は外から買うものが多いので、値段も高くなっています。第二次世界大戦の最中は、ロシア人は食うものも食わずにナチスと戦ったと言われていますが、今度もロシアの中ではLess Foodと書かれてあります。食いものは減る、それでも耐えるということです。普通のロシア国民がそれに耐えるだろうと言っていますが、食べるものも十分食べられずに耐えられるのかと思います。

 ヨーロッパにとっては、このロシアの問題にアラブの問題が重なっていまして、もともとヨーロッパにおいては、ヨーロッパとアラビアが一緒になったユーラビアという表現が、この2、3年完全に定着しています。人口比で言うと、イタリアとフランスで多いだけではなくて、デンマークとかオランダとか北の方でも、アラビア系の人、イスラム系の人が多い。フランスで起きたテロから反射するように、Populistによる移民反対という話が当然出てきますので、アラビアというかイスラムの関係でヨーロッパ自体の政治運営がものすごく難しくなっています。それにプラスして、ロシアの問題が来ていますのでどうするのか。もちろんもう一つユーロ圏問題があって、ギリシアに極左と極右が連立した政権が生まれました。ここはもはやヨーロッパにおける対立軸は右と左、中道右派とか中道左派とかいう言い方では語れない。この10年の単位で言うと、中道右派も中道左派もほとんどの国で政権を構成しており、この人たちはインサイダーと言われるようになっています。そこから弾き出され、ドロップアウトしたというか、アウトサイダーになっている極左と極右が政権を取って、これまでのインサイダーが困り果てるという構図が今、ギリシアにある。これが明日、スペイン或いはポルトガルに起きないとは言えないし、フランスなんかでもあるかもしれない。

 デーヴィッド・キャメロンは、シェンゲン協定、すなわちEU内において自由に人が移動できるという協定を制限するため、EUに残るかどうかということを、2017年に国民投票にかける可能性が高くなっています。UKIP(UK Independent Party)に支持が広がっていて、インド人、パキスタン人、バングラデシュ人などは、かつての植民地の関係でイギリスには大勢いたわけですが、これ以上移民が増えるのは認められないということです。これについてはメルケルがキャメロンにそれは絶対ダメ、シェンゲン協定についてとやかく言うのはやめなさいと、そういう言い方をしているらしいですが、キャメロンの方はイギリスの現状からすると無理だと言っているようです。イギリスもレファレンダムにかけるかと思いますが、その時にEUに残るのか残らないのか、スコットランドの時もあれだけ揉めたんですが、やるときは投票をやるのだと思います。そういうイギリスは、EUの将来に何をするのかというのは非常に難しい話になります。ですからプーチンもわからない、ユーロ圏もわかりにくい、ましてユーラビアのことはわからない。ユーラビアの問題は結局ヨーロッパ像の問題です。21世紀におけるヨーロッパ像を描き出すことはものすごく難しくなっています。どうやって勉強していいのか、手掛かりもないのですが、ヨーロッパでも大きな売上をあげておられる企業もありますし、まして中東とかロシアとかにまで広がる話ですから、単なるヨーロッパだけの問題ではないと、そういう脈略に我々は生きているのはないかと思います。
(2015年2月4日談)

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