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理事長のひとこと

第265回 大調整の中国経済

 中国を考える人たちの中で怪しい動きが出てきています。ごく最近では、香港上海銀行がロンドンから本店を移すという話があります。これはロンドンにおいて、金融機関に対する課税が非常に厳しくなって仕事をしていられないという話でありまして、ロンドンから移転するということは半年ほど前にトップが言っていたわけです。普通は香港での仕事が多い訳ですし、中国のウェイトも高いですから移転先は香港かなと思っていましたが、今もわかりません。最近の議論だと香港ではなくて米国の可能性が高いと、少なくともアドバイザーの有力な人達はそう言っている。理由は何かと言うと、中国の政治社会変動の中で、21世紀の香港が従来考えていたような香港ではいられないのではないかということです。これは政治的なリスクが大きいからであります。政治的リスクが大きいということは例えばどういうことで現われているかというと、ごく最近ですが李嘉誠(リカシン)という香港の財を成した、アントレプレナーシップ(企業家精神)に溢れた人が中国本土の不動産投資も大成功したのですが、それを基本的には売り放して、ポートフォリオとしては例えば欧州の通信会社などに移しています。あれだけ香港で土地を買って、いろんな恩恵を受けていたのだけれども、本社も香港から租税回避地に移してしまうということがありまして、これはもう怪しからんということで、李嘉誠は中国国内で名指しで批判されています。全部本土の資産を引いたかどうかわかりませんが、少なくとも中国本土から資金がどんどん流出するのに対して批判されているようです。

 北京からすると香港を使って金融調整ができると思っていたのですが、「点心債」という人民元建ての社債の発行ですが、今はもう人民元建ての社債を香港で買う投資家なんかいません。そもそも高いクーポンレートをもらえると思っていたのですが、とてもそんな負債が大きくなっている中国の企業が高いクーポンレートで出せるわけもないということで、そういう形でも使えない。もちろん香港における中国企業のIPOは依然として続いていますが、しかしこれは調整の中でそんなにうまく使えるかどうかはわからないというところに来ています。要するに香港の学生が民主化の実績を求めて騒いでいるだけではなく、香港の経済・企業がはたしてどの程度のものとして期待できるのかということについても、北京の感じ方が変わってきている。逆に言えば、香港は1国2制度でいつまでもいられるわけでもない時に、香港上海銀行、香港と上海をつけた英国の銀行が米国に行くかもしれない。これはおそらく数か月くらいの間に結論を出すのだろうと思いますが、そういう状態があります。

 それからAIIBの初代トップになる金立群(キンリツグン)という人が、ここのところ世界の新聞の単独インタビューに相次いで応じていまして、金さんの言っているのは大まかに言って二つあります。一つは「AIIBは中国の為の仕組みじゃないから米国と日本はいつでも歓迎するし、人材は例えばADBや世界銀行がやっているようにグローバルに必要な人材を取る。日本人のバンカーからも働きたいという内々の話は受けている」「例えばADBとかと同じような普通の銀行ですよ」と言っています。もう一つは、AIIBに出資すると意思表明した国が57か国ありますが、「欧州勢は遅れて手を挙げたから、この設立趣意書の段階で作った規定を変えようっていうわけにはいかないよ」と言っています。英国をはじめ欧州や、これから参加するならしてもいいよという日本、あるいは米国もそうですが、「今後参加国が増えれば基本的には資本金総額を増やすけれども、AIIBは常設の理事はつくらない」「極めて円滑にというか、時間をかけず意思決定をする執行体をとる。(金さんという)トップを中心にタイムリーな融資の意思決定をします」と言っています。その上で「改めて米国、日本に対して、嫌がらずにどうですか」いうことを言っています。

 それから習近平総書記がモンゴルに行った時の話ですが、中国が欧州復興開発銀行(EBRD)のメンバーに入るということになりかけています。EBRDには中央アジアの国々も入っている。これもだいぶ主旨が変わってきたのですが、もともとはソ連邦解体のあと、東欧を中心にして新たな欧州といいますか、昔からの欧州を入れた。インフラ投資等にお金がいるものだからEBRDを作ったのですが、その時に当然冷戦の勝利ということが背景にありましたから、このチャーターには民主主義も書いてありますし、人権の擁護も書いてありますし、マーケットメカニズムが尊重されることも全部書いてあります。中央アジアもご存じのようにそういう条件を必ずしも満たしているわけではないのですが、中央アジアの国々がEBRDに入る。One Belt One Roadでシルクロード基金にもこの地域が入るのだったら、EBRDに中国が入るのも当然ではないか、一緒に仕事をしようと言って、EBRD加入は基本的にOKということのようです。従いまして、チャーターとは違うものになり始めていますけれども、欧州の未来というのも本当に難しく、誰がどう設計するのか、EUというのは本当に持続するのかというところまで今来ています。英国はReferendumにかけてEUを脱退するかもしれませんが、これが少なくとも2年くらいの間に決まります。今の雰囲気からいくとEUという所帯の中にいても仕方がないという議論はもっと大きくなるかなと、本当にわからなくなってきているのだと思います。それに正に難民が来ましたから、これをどうするのかという話もあります。フォルクスワーゲンの問題がどこまで効いてくる話なのかわかりませんが、少なくとも欧州の産業ビジョンにおいて、根っこのところからディーゼルで本当にいけるものかと疑われている、最近そういうニュース、英語雑誌が増えています。要するに産業の根っこのところにまで影響が及ぶかもしれないという議論があります。それで新規の職場を欧州で作るというのは本当に難しくなっているという自己認識がありますから、中国が投資してくれるというと「どうぞ」「一緒にやりましょう」という雰囲気があります。

 そういういろんなことが起きている中国ですが、私は最近マルクスとレーニンで改めて中国を説明した方がいいと思っています。マルクスの「資本論」が書かれた19世紀の欧州というのは、10年あるいは10数年のサイクルで金融恐慌が繰り返しやってきていました。その分析がマルクスの仕事でしたが、19世紀の欧州の金融恐慌というのは図式的に言いますと、比較的クローズな一国の中で、例えば英国を考えてみますと、需給が崩れてくるわけです。少しうまくいくかなと思って投資をする、しかしいろんな理由がありますが需要がついてこない、需給ギャップが広がる、そうすると資金繰りが困る企業が当たり前ですが出てくる。この資金繰りがうまくつかないとなると倒産が多発する。倒産が多発する時に少し連鎖倒産みたいなものが起きる。中央銀行制度ができていませんから、「銀行の銀行」という救済するような仕組みというのは理論的にも制度的にも整備されていません。「あ、またやってきた」「流行り病は10何年の内いっぺんは来るね」というような形で、それを金融恐慌と名付けたのですが、そういうのが繰返して行われていました。マルクスの分析はここまでです。もちろんそこから社会主義を構想します。社会主義になると、いろんなものが全部開発されるのだと、例えば資本主義制度と違って、社会主義制度の下では人々の有機的な連関というものがどんどん立ち上がってくるから、人々は自由な結集をする。結社の自由の下にいろんな組み合わせの中でその時々にあった供給体制を作り需要喚起に努める。「資本主義的悪」すなわち、貧富の格差が拡大し、需要が不足し、繰り返し恐慌を引き起こすことに対して、社会主義革命を行えば人々は自由な創意に基づいて新しい組織を作って、需給ギャップの解消を図るという考え方であります。

 今の中国を考えてみると、途中までは一緒です。需給が崩れ、資金繰りも悪化して、不良債権に匹敵するものも出始め、連鎖的な反応が起きるかなという話です。もし銀行、金融機関にシステミックリスクが起き始めれば、これはバブル大崩壊だということだったのですが、ここから先の現実は違っています。どうやらシステミックリスクは中国では起きない。起きないという理由を複数挙げるとすると、一つはマーケットのインテグレーション、金融市場の統合が行われていませんから、銀行間の貸借には中国本土全体でインテグレートされたスキームが実現しているわけではないということになります。銀行の取り付けも部分的には起きている。しかし銀行間の貸借に関わるインテグレートされたスキームはありませんから、キャッシュはそれぞれのところで帳尻合わせが行われているということです。もちろん上海にインターバンクのマーケットがあって、レートもあるのです。翌日ものはいくらとか、もう少し長いものならいくらというレートは出ていますけれども、本当に上海のインターバンクのマーケットでキャッシュマネジメントがみんな為されているかというと、そんなことはないというのがどうも実態のようです。それからシステミックリスクというのは銀行に金がなくなる、銀行にあるはずの金がなくなるということですが、どこかの銀行には金がなくなっているぞというようなことは、地域的には起きているようなのです。小さな銀行のBankrupt(破綻)は起きている。見た人はいっぱいいますし、中国のジャーナリストも書いていますから、実際起きていると思うのですが、それがナショナルベースで起きることはないということであります。従ってここからは我々の知っているハードランディングのシナリオとは全然違うシナリオが中国では動いていると考えるべきです。それで資金の純流出という話がやっぱり出てきた。中国の外貨準備は、去年の夏頃から減ってきています。外貨準備を拡大してきて、米国債の保有がどんどん増えていくときに、オバマ政権ができた。オバマ、あるいはその周辺が「G2について考えなきゃいけないな」と思ったのは、「米国債を買ってくれている一番の国は日本でなくて中国になり始めているぞ」「その中国はこんなに国債買ってくれているのだから、知らんふりというのはもういくら何でもまずいんじゃないか」と考えたからです。米国債の価格には安定性が不可欠なので、「やっぱり北京の意向というのは重要だ」となった。確かに外貨準備は去年の夏ごろまではずっと増えてきたのですが、これが減り始めて、まだ減っています。どうしてかというと、ちょうどこの時から中国経済の先行きに対して、かなり多くの中国経済にかかわっている人達が「やっぱりこのままじゃ中国経済が回っていかない」と考えたからです。最初にその意思決定をしたのがBHPビリトンとリオティントです。英豪資本というのか、豪英資本というのか、この人たちが「中国の鉄鋼生産能力は年間10億トンを超えたが、需要の方は全然ついてこない。せいぜい6億ちょっとか7億くらい。これに対して生産は8億トン。まだキャパシティの方については、投資を増やすと言っているけども、生産の方はとてもじゃないけどもう増えないよ」ということで、「じゃあ鉄鉱石は売れるのか、原料炭売れるのか。もう売れない。もう横ばいだ」と考えたのが2014年の春先です。このへんのところで彼らが「もうダメだ」「中国に鉄鉱石は売れない」と言った。その頃からやっぱり商売を考えるとなかなかうまくいかないという話になってきて、それまで中国にお金を持ち込んで仕事をしようとしていた人達がストップをかける。一部は「引き返す。早く外に出た方がいい」と思い始めた。外から中国に関与していた人もそうですが、中国の中で「とてもじゃないけど売上げを増やすのは難しい」「商売が難しいのでお金を外に出す」と考えた。それで人民元は下がり始めたわけです。放っておくと下がるという状況なので、中央銀行は外国為替市場に介入しました。外貨を積み上げていますから、ドルを売って人民元を買うというオペレーションは簡単に始められるわけです。人民元の先物がどんと安くなったのは去年の夏です。その時から、当局は人民元を買っています。どの金で買うのかと言ったら外為勘定です。外為勘定で、一方でドルを売って人民元を買う。それが外準の残高が減ってきているという背景ですが、問題はドルを売って人民元を買いますから、マーケットから人民元をどんどん吸収してしまうわけです。企業の資金繰りが苦しい時に、人民元をマーケットからどんどん吸収しますからこれはまずいやとなる。それではどうするかというと、預金準備率を高くして銀行に対して預金の増大に応じて納めろと言っていた比率を下げてあげる。でも「それだけでは足りない」と皆ピーピー言っている。2011年頃から浙江省の温州などでは経営者の夜逃げが始まっているようです。そういう意味では、国内のお金を回さなければいけないけれども、このオペレーション、要するにこれ以上お金が中国から離れていかないために人民元の価格を維持しなければいけない、そのためのオペレーションをやると国内の金融市場が逼迫してしまうという話です。

 白川日銀前総裁は、「日本銀行の総裁になってみたって何だってできるわけではありません」としょっちゅう言っていました。3つのことを同時にすることはできないのです。金融政策の独立性と為替レートの安定した推移と自由な資本取引、この3つを全部満たすという解は出せない。白川さんはそのウェイトを考えた。もちろん資本取引を制限するということは日本ではありえません。ただ独立した金融政策を実行するということになれば、「それではどこにシワが行くのですか?円が異常高になるっていうこともあるのではないですか?」というのだけれども、「そこはしょうがないんじゃないかな」というのでそっちに行った。しかし、黒田さんは「こんな異常円高は駄目だ」というので、独立した金融政策とは言えるか言えないかについてはもうギリギリのところなのですが、「クロダノミクス」で異常円高是正に走って、結局金融政策の独立性の方は「長い目で見て回復すればいいのではないか」ということです。日本はそれでもともかく資本の取引に手をつけることなく異常な円高は是正しました。今は出口があるのかという出口論になってきた。独立した金融政策という話が最後残ってしまった。
 しかし中国の場合は、先程の経緯をたどっているものですから、やたら複雑になってきた。要するに何をやってもそれぞれの役所は自分の庭だけをきれいにする。でも「他にどういう影響が出るかわからない、ごめんね」という話なのです。それで、IMFのSDRの構成通貨として人民元が入るために、8月に為替レートをマーケットに合わせるという決定をして、これが人民元安を誘導したのではないかというメッセージを構成してしまったのですが、あれはIMFと組んでいたようです。IMFは「とにかくそんなわけのわからない基準レートみたいなことはダメよ」「もっとマーケットの値を尊重するように為替レートの決め方をやってくれよ」と言って、中国は「わかった。じゃあ前日の引け値から翌日は始めます。そこから一日の変動幅は上下2%内に」とした。これが8月の人民元安誘導と言われたものですが、それは誰が決めたかというと、私は習近平だと思います。「SDRに人民元を組み入れて人民元の国際化をやれ」と、「それをやらないと米国の決済システムに組み込まれたままだ」ということです。「中国の賄賂が全部表に出てしまうではないか」という懸念に、「賄賂を取っているやつを締め上げているからいいではないか」と言うのですが、米国が締め上げているということが問題です。「9.11」の後、もう15年になりますが、米国のバンクアカウンティングの管理というのは物凄い。要するにマネーロンダリングを摘発するための仕組みというのは、物凄い水準になってきている。だから北朝鮮の銀行がマカオでマネーロンダリングをやっていたのも摘発しましたし、FIFAの欲張った、ポケットのよほど大きな洋服を着ている人達だと思いますけれども、ポケットに入れていたのを摘発したのもこの米国の決済システムですし、中国の話も私は完全に押さえていると思います。逆に北京から言うと、人民元決済は少しずつ増えてはいるけれども、いわゆる西側とやるときには「人民元というのはどういう通貨なの?」みたいなことをいつまでやっていても問題です。それで、中国人民銀行に対して「SDRに人民元が入るのはもうMustだ」「これをやれ」と、「これでとにかく元決済を広げる。そうしないと米国に首根っこ押さえられたままでは、とてもじゃないけれどG2なんて言っていられないぞ」というので、多分ピンポイントで「IMF のSDR建てに人民元を入れろ」と言うから、それだけやったのです。しかし「何?人民元安誘導するの」「そこまで落ち込んだのか」というメッセージになってごたごたになったのですが、私はそういうことだと思います。

 ポイントは資金の流出が止まらないことです。外準が3兆数千億ドルありますから、「こんなに金あるのだから、いくらだってオペレーションをやれるだろう」と言っているのですが、しかし、この1年間で結構減っています。このまま減っていくと、もっと本格的な資本流出が起きる可能性がある。中国の企業がドルでファンディングするということは、今は全然問題ありません。人民元は十分高い値を維持していますから。だけど本当に困ってくると、海外でローンを組み外貨でお金を借りている企業は、そのリファイナンスをしなければいけませんので、ドルのファンディングが常に必要です。中国企業のいくつかはもうそういうことが非常に重要なレベルになっています。要するに今まで我々は「システミックリスクっていうのは起きるかね」とか「やっぱりあるんじゃないの」とか言っていました。ほんの2年くらい前までは、シャドーバンキングでガタガタして銀行が結局シャドーバンキングを閉鎖する時に、「あれはうちの窓口で預かったやつだから、あるいはうちの子会社が仲介したものだからこれは面倒見ます」と言ったら、不良債権が大きくかさんでしまってシステミックリスクってあるのではないかと、我々も言っていた時もあります。しかしどうもそっちへは動かないけれども、しかしお金をずっとのり付けしておくわけにはいかないということが、中国の中で起き始めています。この動きが起きると、北京サイドで「香港を使って何かできないか」「いや香港は何の役にも立ちません」となった。「とりあえず手元にあるのは、揚子江あるいはパールリバー沿いの工業地区にどんどん外から進出してくれて作ってくれたコンプレックスが輸出した結果として積み上げてきた外準です」「これだけ使って行けるところまで行きます」ということなのですが、「行けるところまで行けるかな」「どっかで崩れるんじゃないの」という話が、私はもう始まりかけたと思っています。だからハードランディングはシステミックリスクを通じてではなさそうですが、中国のお金が外に出ることを止めることはできるのかということです。

 一つのアイデアとして統制強化すればいいではないかというのはあります。5中全会で来年から始まる5か年計画をどうするかという議論がされています。でも本当は中国の5か年計画なんか見たって仕方がない。成長率目標をどこまで下げるとか、6.5%で留めるとか、そんなことはニュースでも何でもなくて、多分5中全会で議論していないと思いますが、これが多分ポイントなのです。中国は国内の金融情勢にフォーカスしようと思っても、フォーカスしきれない話が始まっているわけです。ものすごく統制的な手段を取ると、構造改革は全部ストップするということになります。国有企業を中心とした仕組みを推進してコントールできるようにする。マルクスの「循環する金融恐慌」という分析は19世紀のあの時点でなかなかの問題提起でしたし、結社の自由が社会主義の下で全面開花すると言ったのも素晴らしい話ですが、ご存知のように中国社会主義の下ではそのような状況にはありませんから、従ってTFP(全要素生産性)が国内的な理由によって上がるという可能性は非常に乏しい。だから何らかの形で外資、別に日本だけを考えているわけではないと思いますが、外から技術とかあるいは経営能力を持ち込んで、TFPを上げるより仕方がないというところに行っているのだと思います。
 もう一つのレーニンですが、AIIBやOne Belt One Roadは、レーニンの「帝国主義論」の今日版だと理解することができるかもしれない、というふうに最近は思っています。レーニンの「帝国主義論」も簡単に述べさせてもらうと、一方に資本の集中により巨大資本というのが生まれる。当然、利益の分配は不平等であるから、過少消費は構造化する。そうすると国内市場において製品のはけ口がない。軍事力はどんどんつけているから、「よし、外の市場を軍事攻勢でもって取ってこよう」となる。それはClosed Economy でやっているのですが、ところが英国がそれをやりだすと、ドイツもやるフランスもやるということですから、海外における市場争奪戦というのが始まってこれが帝国主義戦争になるという話です。

 AIIBやシルクロードファンドでは、途中までは同じです。資本の集中と過少消費、製品のはけ口、過剰能力がすごいです。鉄鋼だといろんな数値があるのでよくわかりませんが、供給能力が11億トン、需要は多分7億トンくらい、輸出を1億数千万トンするというのは、これから中期的に続くと思います。これを解消する方法があるとすれば海外の市場です。「アジアを中心としたインフラ整備が必要。港も鉄道も道路もみんな足りない」と言うのでOne Belt One RoadはWin-Winだと言っています。インフラが欲しいという国があるので「中国の過剰能力の解消というのを、兵隊を送らなくてもできるではないか」と言うのですが、これはそう簡単な話ではありません。それはなぜか。「投資にしろ、融資にしろ、資金は返ってこなければいけませんから、そんなプロジェクトを組めるのか」という話になります。それから「中央アジアならいいんじゃないか、中央アジアはいっぱい資源を持っている国があるから」という話もある。しかし、資源を持っている国はこれ以上資源依存体質を持続させてはいけない。安倍さんが行って、「資源依存体質を克服するために、製造業育成にも力になる」と言っている。しかし中国の余り方も半端ではありません。アルミ地金は余る、鉄鋼は余る、セメントは余る、塩ビは余る、全部余っています。アルミ地金の生産能力はこれもいろんなデータを見ると世界の半分くらい中国で作っていますから、それを持ち込むというのですが、そんなのを持ち込まれたら自立的な製造業を作ろうという側からするととんでもない話だということになります。インフラ整備でどんどんアルミ地金、石化製品、鋼材を買ってくれといっても、ピクチャーがそこで完了するとは思えない。だから私はこの話はレーニンの「帝国主義論」の現代版だけれども、もちろん戦争が起きるわけではないけれども、このプロジェクト自体は蹉跌するという可能性が非常に強いと思います。因みに帝国主義論のレーニンの後では、トロッキーとスターリンの二つに分かれました。トロッキーは「トータルな革命戦争が必要だ」と、スターリンは「一国社会主義で行く以外ない」ということになるわけですが、中国もこの閉塞を打ち止めにするアイデアをどういう風にまとめるかですけれども、トロッキーとスターリンがやったくらいのアイデアの対立は当然中国で出ます。我々はとてもじゃないけれどそんなところに介入できるわけでもないし、支えてみたってうまくいくわけでもないのですが、どうするのかなと思っています。要するに北京で「新資本論」、「新帝国主義論」というものが出版されるのはそんなに先ではないのではないかと思っています。

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